彼の理想の田園へ

日記と妄言、活動記録。

【日記】弓塚さつきという女 -『月姫』21年目の初見感想-

1. はじめに
 本題とはまったく関係ありませんが、ユーザーブロマガは2021年10月7日(予定)をもってサービス終了します。この告知があった直後にユーザーブロマガを検索してみたところ、非常に多くのユーザーがブログ移転をお知らせする記事を書いていました。僕もきっといずれ移転すると思います。何事についても後回しにする癖があるのでブロマガ閉鎖直前になるかもしれません。内容はともかく、過去の自分がどのようなことをしていたのか振り返りたい性分なので日記が読めなくなるのは困りますからね。

 そして今回、サービス終了が予告されているユーザーブロマガに新しい限界怪文書を投下します。誰もがいなくなりつつある世界に留まって活動を続けることで、気軽にポストアポカリプス的SFを感じることができます。お得ですね。


2. イントロダクション・オブ・本題
 2021年に入ってから『月姫』シリーズを嗜んでいます。初出から約21年経っているとのことで、大変な知名度と人気のあるシリーズです。とか言っといて僕自身は他シリーズも含めてほとんど知らない作品群です。2000年はまだ小学校に入る前でしたし、このようなカルチャーに触れたのもずいぶん歳を取ってからだったので、それはもうまったくのノータッチでした。

 そのような僕にさえ、ことあるごとに視界の端に映り込んでくるところに『月姫』シリーズ(他関連作品)の巨大さが表れていると言えるのではないでしょうか。「なんとなく見たことがあるけどよく知らない」というもやもや感を払拭すべく、この広大なTYPE-MOONという大陸の一端に上陸したというわけです。

 とはいえ、調べてみると原作ゲームは非常に希少かつ高価で、起動する環境作りも困難であるということで現在はニコニコ動画に上がっている実況プレイ動画を観ています。なるべく原作から広く学んでいきたい派なので、コミカライズ版やスピンオフ作品、アニメにも触れたいと思います。しばらく退屈しなそうだぜ。


3. 弓塚さつきという女
 実は前述のプレイ実況動画自体まだ途中までしか観ていないのですが、今回どうしても心に大きな衝撃を受けたエピソードを目の当たりにしたので我慢できず書こうと思います。それはタイトルにもある通り『弓塚さつき』というキャラクターについてのお話です。

 アルクェイドルート、シエルルートを経て、僕の中での弓塚さつき("さっちん"と呼ばれている)の印象は、『まったく重要でないモブキャラ』でした(申し訳ない)。2ルートともに物語序盤でしか出てきませんし、ほとんど会話をすることもない。言ったら賑やかし、特に何もない有彦と同じですよ!そう言ってこの先に乾有彦を襲う壮絶な物語が待っていないとは限らないのでここまでにしておきますが、さっちんにはとにかくそれくらいのチョイ役というイメージを持っていました。だから物語の序盤で彼女が失踪したという話を聞いても、「いなくなっちゃったんだー、どうしたんだろう」くらいの感想しか浮かびませんでした。むしろその他の怒涛の展開に気を取られてさっちんが失踪したことが何を表していたのかまったく気づきませんでした。

 しかし転機が訪れました。物語はいわゆる"遠野家ルート"に入り、秋葉、琥珀翡翠との絡みが多くなりそうな予感がしていた時でした。これ、今でも違和感が強いのですがこの何となく遠野家の面々と深く関わって来るんだろうナ...という流れの中で突如、弓塚さつきがゴゴゴゴゴ......という大きな音を立てながらダイナミックに動き始めるのです(心象風景)。なんと、さっちんとの会話数が急激に増え、その中で彼女と主人公・志貴さんとの間には浅からぬ因縁があることが判明したのです。しかも熱い。傍から見てると「なんて健気でいじらしい娘なのかしら......! ここからどうなっちゃうの......!?」と言いたくなるようなそのさっちんの人間性が披露され、それまでの僕の"さっちん評"がガラリと変わったのです。こいつモブキャラなんかじゃなくとんでもねえヒロインだぜ......という風に。しかもゲーム内でも豪華に特別な一枚絵が挿入されていたので、この部分の製作に明らかな気合が入っていたことがわかります。

■あまりに感動したので絵を描きました。ほんまええ子や......。

 「それじゃあ、私の家はこっちだから。また明日、学校で会おうね」。そんなこんなで彼女のことがよくわかった帰り道のシーンなのですが、この後に例のイベントが起こってしまいました。なんとこのルートでも例外無く弓塚さつきは失踪します。これがあったか~~~ッッッ!!! と思わずバキキャラ化してしまうほど衝撃的でした。だってこれがあることを完全に忘れていたもの。彼女のことを知らない頃は「いなくなっちゃったんだー、どうしたんだろう」なんて思っていたんだもの。これが知ることの苦しみです。なかばさっちんの魅力を知ってしまったばかりに、ここから始まるとてつもない地獄への道に踏み入っていくことになるのでした。

 弓塚さつきはその失踪の前日、遠野志貴を探して"吸血鬼騒ぎ"が噂される夜の街に繰り出しました。その結果、なんやかんやあって吸血鬼と化してしまいます。まずはここが切ない。これまで積年も積年の「志貴さんに近づきたい」という想いの結果、勇気を出して闇の中へと踏み入ってしまったんですね。切ない。そして彼女がまったくの一般人であるばかりに誰も知らないうちにあっさりとやられてしまうのも切ない。当然、物語上ではここまでで数多くの名もなき被害者が出ています。彼女もその中の一人になってしまったのです......。

 その後、僕の語彙力では形容できないほどの壮絶なやりとりがあったのちに弓塚さつきは志貴さんの能力によって死に至ります。そこには例えば悪しき敵役を倒した時のような爽快さなどはなく、ただただやりきれない気持ちでいっぱいの苦渋の決断の結果だけがありました。嘘やん......そんなん嘘やん......。思わず僕は呟いていました。あらゆる超常の現象・能力が渦巻くこの世界にあって、僕は不思議と如何ともしがたい圧倒的な無力感と"詰み"の観念を覚えました。この歳にして胸が張り裂けそうになってもどうしようもなく、独り静かな部屋の中で悶えるしかない僕が息も絶え絶えに詠み上げた一首、

分け入らば すぐ夜むなしく 幸尽きぬ
遠野に見ゆる たそがれの影
                    陽佳


まったく和歌の素養などは無いのですが、あまりのもののあはれに(言いたいだけ)思わずひとりでに頭に浮かんできてしまいました。お粗末。

 話を戻します。このエピソードの何が切ないって、この吸血鬼騒動の被害者が弓塚さつきである必要性はまったく無いという点なんですよね。ある意味で現実に対する非情な誠実さを感じたがゆえに、悲しみを超える苦しさを感じました。別にまったくの善人であっても当然のようにこのような災厄が降りかかることはあるよっていう。

 ここで逆にさっちんに特殊な呪いがかかっているとか、物語的に重要な人物であるとか、そういう前フリがあったらこれほど僕の心に突き刺さることは無かったのではないかなと思いました。まさしく一寸先は闇。弓塚さつきがその勇気をもって一歩踏み出し、長らく凪の状態であった遠野志貴との関係性を加速させ始めてからわずか3日目のことでした。

 救いであったのは最後に志貴さんとさつきの間でやりとりがあったということ、そしてその後の志貴さんに、さつきについての述懐があったということです。これがあることで僕は、すんでのところで突き放されずに済みました。彼らにとってはまったくの救いがない出来事でしたが、読者である僕にはギリギリのところで救いが用意されておりました。この点が、この物語の素晴らしいところと思います。


4. おわりに
 僕はまったくデリカシーの欠片も無い人間なので、さっちんが志貴さんに対して打ち明けた微妙なニュアンスの言葉に「それって"好き"ってことじゃん!? "好き"ってことなの!?」と心の中で叫びながら悶え続けておりました。実際どうなんだろう......安易に"LOVE"ってことで良いんでしょうか? でもそうでもない感じもあったような......己の読解力に自信が無いために判断がつきませんでした。あのさあ! 好きってことならお前がヒロインで良いよ!! ねえ!! かわいいんだからさ!!

■散々語っといてこいつマジ…。

 そのような感じで僕にとっての『月姫』、まだまだ道半ばながら楽しんでおります。のんびりしていると新作も出てしまいますね(2021年8月26日発売)。そこではさっちんはどうなんでしょうか、幸せになれるのでしょうか。そもそも何が幸せの形になるのでしょうか(深淵)。もう物語全体が重いばかりに疑心暗鬼になってしまいます。シエルルートのバッドエンドも凄かったし。

 あとは僕は格ゲーも多少嗜みますので、のちに控えているメルブラ新作ではさっちんの姿がどのようになっているのか楽しみです。ここまで彼女の魅力について長々と綴って来ましたが、実はアルクェイドさんも大好きなのでどちらかは僕にあったキャラ性能だったら良いなーと思っています。つまりはこの2021年、僕にとっては『月姫』シリーズの年になりそうです。いくつになっても新たな作品に手を出していくことは人生を豊かにしてくれますね。これが幸せ、そう幸せ......。


EX. おまけ
 
月姫エンディング後の『教えて!!知恵留先生』のコーナーにスッと出てくる謎の存在を描きました。重いストーリーの後に来るあの雑なギャグ的ノリ、嫌いじゃないしむしろ好き。