彼の理想の田園へ

日記と妄言、活動記録。

【MHWs】アルシュベルド、その新たな始点 後編【第55話】

 前回からの続き。ゴア・マガラを確認・討伐し長らくの懸案事項だった『狂竜症』周りの謎を解明した俺こと鳥の隊ハンター。あたかもこれで『禁足地』に山積する諸問題が解決し一段落着いたかのような気になっていたが別にそんなことはなくすべて俺の勝手な勘違いだったことがすぐにわかる。

 まだまったく中途半端な状態のまましばらく放置されていたアルシュベルド関連の調査。しばらく音沙汰がなかったのでてっきり俺は「なんかいい感じに『もういいよ』ってなったのカナ?」などと希望的観測をもって無責任に考えていたのだがここに来てようやく進展があったらしい。アルシュベルドに関する新情報をもたらしてくれたのはファビウスでも他の隊の調査員でもなく、ハンター見習いとして絶賛成長中のナタだった。

 ここで唐突に俺たち"ゲームのプレイヤー"の話をすると、誰しもがいつかどこかしらの地で突然に『ハンター』になる。それはまるで『世界五分前仮説』を持ち出す際に使われる例え話のように、初めてフィールドに出る若者のような状態でハンターになった者もいれば『モンスターハンターワイルズ』での俺(主人公のこと)のように既に各地で十分に実績を積んできた人間としてハンターになる者もいる。

世界五分前仮説(せかいごふんまえかせつ、Five-minute hypothesis)とは、「世界は実は5分前に始まったのかもしれない」という仮説である。

たとえば5分以上前の記憶がある事は何の反証にもならない。なぜなら偽の記憶を植えつけられた状態で、5分前に世界が始まったのかもしれないからだ。

世界が五分前にそっくりそのままの形で、すべての非実在の過去を住民が「覚えていた」状態で突然出現した、という仮説に論理的不可能性はまったくない。異なる時間に生じた出来事間には、いかなる論理的必然的な結びつきもない。それゆえ、いま起こりつつあることや未来に起こるであろうことが、世界は五分前に始まったという仮説を反駁することはまったくできない。

— ラッセル "The Analysis of Mind" (1971) pp-159-160: 竹尾 『心の分析』 (1993)

 

――Wikipedia『世界五分前仮説』より抜粋

 ゲーム内においては「かつて自分もハンターだった」というようなNPCをわりかしよく見てきた気がするし、「過去○○だった」というステータスのキャラクターはなんとなく世界観に深みを出すために設置しやすそうな感じがする。その一方で『ワイルズ』にてハンターでなかった人物が今まさにハンターになろうと行動している様子が描かれていることを俺はとても新鮮に感じた。先輩でも同期でもない、後輩としてのハンター未満の存在は少なくとも俺の記憶には無い。

 やっぱそうだよな。人それぞれ色々な境遇で生きてきていつ何がきっかけでハンターになることを目指すのかって絶対違うし、ある程度長い時間軸で物語を切り取れば同じキャラクターでもその時々でどんどん状況が変わっていくものなんだよな。難しいこととは思うが、そういう丁寧な切り口で人々の営みの変化を表現する取り組みを見るとなんというか俺は納得感があるというかちょっと嬉しい感じがする。

 話を戻そう。ナタの調査によれば『竜都の跡形』を飛び出し各地へ散っていったアルシュベルドたちは明らかに自然に生殖しており、卵の孵化によって新たな生命が誕生しているのだという。"食事を摂る必要がない"、"生殖能力がない"とされていた護竜。中でもアルシュベルドだけはそれら元々の生態を覆しわずか一世代にて"先祖返り"のように原種のアルシュベルドへ近づいているらしい。マジか…にわかには信じたがたいが俺が上位に入ってから半ばリタイアしたかのようにのんびりしている間にそんなことが起こっていたとは。

 俺は漫画『範馬刃牙』にて『ピクル』が誰彼構わず現代人女性を犯して子供を残したりヤツとともにそのつがいとなる雌が現代に蘇生したりするような展開にならなかったことに安堵したことを思い出した。あのような超人類的な生物のDNAが現代にバラまかれたら大変なことになるッッッ!!!(※生物的に異なり過ぎているので子供が生まれるかどうかは考えないものとする) アルシュベルドは当時俺が危惧した状況と同じようなことをやってのけたということだ。まったく「スゴいね モン体♡」という話である。

 それに加えて(あくまで数いる中の一頭だが)根源を絶ち、一旦解決したかのように思えた『狂竜ウイルス』騒動は実はまったく収まっておらずこの地の根深いところにまで侵食していたらしい。エリックによればこのところ禁足地の4種の頂点モンスターたちが暴れていた原因は異常気象以外にもあり、それは広く各地に拡散した狂竜ウイルスが生物や植物の中に蓄積、食物連鎖の過程で濃縮された結果、最終的に頂点モンスターの皆さんの食卓に並びそれぞれをお口にされたことによって活性化していたのでは?とのこと。そのような経緯である意味で流れ弾的に"キマッた"状態の頂点モンスターの属性エネルギーを吸収したアルシュベルドもまた狂竜症に近い状態にあり凶暴化しているようだという話である。

 な、なるほど…? 聞けば納得できないでもないがこの終盤に畳みかけるように明かされていく情報(未確定)の波に俺は押し流されそうになった。じゃあ俺がこれまで連続で狩ってきた上位の頂点モンスターらはただ異常気象が長引いたことにテンション爆上げしていただけでなく一応は微熱というか微狂竜症の状態だったということか。だったらきっと狩猟されてもしょうがない、どうか安らかに成仏していただければ…(加害者の供述)

 各地の頂点の中でも既にウズ・トゥナとヌ・エグドラが襲撃されたのは確認済みらしい。そうなれば次の標的はレ・ダウだろう。俺はアルシュベルドとの決戦を予感し、もうこのタイミングでしか着替えることもできなそうなので満を持して新しい防具を準備した。

 頂点モンスター素材を使う装備の中から、完全に見た目のみを考慮して選んだのがこのトゥナムルα。特殊装具を使用した時に一定時間防御力と耐性値が大きく上昇する『波衣竜の守護』スキルが『再生の装衣』を頻繁に使う俺にはとても嬉しい。武器は護竜アルシュベルドの素材で作られたガルシュグラディオⅡ。もしかするとこれがストーリー上最後の戦いになるかもしれない。それに相応しい新たな装備をわざわざ作成してから俺はレ・ダウとアルシュベルドがいると思われる風吹き山の頂上へ急いだ。

 『隔ての砂原』エリア17には予想通りレ・ダウがおり、そして今まさにレ・ダウを襲撃せんとしてアルシュベルドが現れた。俺(リアルの方)は護竜の方が果たしてどんな見た目だったかを覚えていないので違いがわからなかったが、俺(ハンターの方)は渋い低音で「原種返りしている」と言っていた。そうか、あれが遥か昔に絶滅した原種のアルシュベルドなのか。

 2頭のぶつかり合いは序盤こそ互角に見えたものの、レ・ダウ渾身のチャージ電撃をアルシュベルドが正面から受け止めたところで戦況が一気に傾いた。その光景に驚くとともに俺は目を疑った。アルシュベルドの野郎、嘲笑-ワラ-ってやがる…(ように見える) やはり属性エネルギーを吸収するという特異の性質を持つアルシュベルドには電撃での攻撃は通じないのだろうか。

 その後はまったく悲惨な展開となった。切り返すようにアルシュベルドが長い鎖状の部位でレ・ダウの頭部をからめとり、そのまま何もさせず宙に持ち上げて首を絞めるような形で絶命たらしめた。あまりにも一方的な惨殺。アルシュベルド周りではいつもレ・ダウが酷い目に遭っていてかわいそうな感じさえしてくる。あ、あの強くてかっこいいレ・ダウが

 そんな私情はともかくとして、なんとしてでも暴走し続けるアルシュベルドを止めなければいけない。俺は岩陰から飛び降りアルシュベルドの眼前に立った。もう隠れることはできない。カメラがスーッと俺の後ろに回り込む。さあ、最後の戦いを始めようじゃないか!

 そんなカッコいい意気込みとともに始まったアルシュベルド戦だが、あろうことか俺は開始2分ほどであっけなく一乙(一度力尽きること)してしまった。!?!?!? 何が起こった??? ヤツの動きや攻撃方法を観察する間もないタイミングでの出来事だったため、自分がいったいどんな攻撃を受けて昇天したのかさえわからなかった。そもそも攻撃の瞬間を視界に収められていなかった。まさかいきなりこちらの全体力を奪うほどの攻撃が飛んでくるとは思わないが、もしかして俺の当たり所が悪かったのか…?(んなこたない) イマイチ釈然としないこの即オチ劇について今となっては迷宮入りの謎だけが残ってしまった。

 気を取り直して第2ラウンドだ。アルシュベルドの両前脚にあるのが見ていて心配になるような発達の仕方をしている鎖状の部位。やはりあれがヤツにとっての強力な武器のようで「そんな乱暴にしたらいつかちぎれるんじゃないか」というこちらのヒヤヒヤした思いなど構わずに力強く振り回し叩きつけてくる。その鎖のリーチはすさまじくヤツより一回り二回り大きなモンスターとてまったく届かないような距離にも攻撃を仕掛けてくるもんだから離れていても気が休まらない。

 確かにアルシュベルドは厄介な武器を持っているが、いったいどのような経緯であんな進化を遂げたのだろう。俺の浅い知識から言うと絶滅した動物はたいてい、特にその時期が早ければ早いほど妙ちくりんな身体の形をしているものである。当時は何かしらの優位性があって特殊な身体をした個体が生き残ってきたのかもしれないが結局最後には絶滅している。それらは現代を生きる俺があえてキツい言葉を選ぶと"神の失敗作"ということになってしまうのだが、アルシュベルドもまた一見強力な武器である鎖が何か生存の邪魔をしたりなんかしたのだろうか。『絶滅種』であるという事前情報があるだけにどうしてもヤツの身体をそういう逆算的な目で見てしまうのが種の生存に不利な性根のひねくれ方をしている俺である。なんとなく受け入れていたが体色が真っ白いのもなんだか不思議な感じがする。

 そんなふうにして俺がぼんやりと狩りとは関係無いことを考えているのを察してか、アルシュベルドは息もつかせぬ連携で猛攻を仕掛けてきた。ヤツの鎖は片腕に2本ついているが、その1本目を躱したと思って喜んでいるところに2本目がビタン!と振りかかって来るのは明らかにズルであることで有名だ。最近、アルシュベルドの鎖状の部位は指が進化したものだという説を読んだ。それならばある程度俺の逃げる方向にホーミングしてきたり振り下ろすタイミングをずらしたりできるのも頷けるが、それはそれとして身体の先端である指がそれほど長く進化していることには「いつ折れるかもわからない」という恐怖も付きまとったりするのではないか。アルシュベルドの絶滅原因は案外気苦労によるものなのかもしれないと俺は思った。

 そんなアホな妄想をしながら立ち回っているもんだから現場は華麗なハンティングとは程遠い男と男のむさ苦しい取っ組み合いの様相を呈していた。押し負けた回数で言えば明らかに俺の方が多い。もう何度砂上を転がされたかわからなくなった頃、不意に頭上の雲がサッと開けて音が止み閃光が視界を覆った。この戦闘の間に季節が移ろい、雷が雨のように降り注ぐ異常気象が終わって豊穣期が訪れたのである。

 目の前の景色が空の天色と大地の黄金に二分された。ああ、そうだった。第6話で初めてこの季節の変化を目撃したときに俺はこの世界が確かに生きていてそのうつろいを長く見つめる価値があると確信したのだった。思わず俺は視線をアルシュベルドから外した。世界のすべてが輝いて見える。なんて瑞々しく眩しいんだ。

 外の世界に出て変化することを望んだ護竜アルシュベルドは、あるいは絶えず激変するこの世界を前にし自らも変化せざるを得ないと理解したのかもしれなかった。だからこそ今一度原種の姿に戻り、自然の中で生きつつ子を為し次の世代に命を繋ぐことを選んだのかもしれない。とにかく生物史上の大事件であることには違いない。これは『アルシュベルド』にとって二度目の新たな"始まり"なのだ。

 そう考えればこそ俺もまた中途半端な気持ちではいられない。世界を構成する一ハンターとして意味の無い狩りはしない。半ば狂竜化し各地で暴走・暴食を繰り返しているヤツを俺は絶対に仕留める。ガラにも無く感傷に浸っている間にこっそりと二乙し一層緊張感が高まっている中、俺はアルシュベルドとの決着をつけるためにヤツが逃げ帰ったエリア17へ向かった。

 最後の瞬間はあっけないものだった。相当弱っている状態でエリアチェンジしたらしくアルシュベルドはエリア17に降り立って間もなく俺の縦斬りを受けて力尽きた。奇しくもクエスト開始前にレ・ダウが斃れた位置のすぐ傍であった。

 こうしてついに俺たち禁足地調査隊の目的の一つであったアルシュベルドの調査に方が付いた。俺たちが『白の孤影』と呼んでいた護竜アルシュベルドは討伐、その後他の個体は原種返りという驚くべき変化を経て自然界に再び合流した。まったく、西方に戻ったのち誰にどう伝えれば受け入れてもらえるかわからない。振り返れば非常に長く驚きの連続だったミッションだが完遂することができて本当に良かった。

 しかし何もすべてが終わったわけではない。まだまだすべきことは残っているしこれからも新たに増えていくだろう。立ち止まっている場合ではない。眼前は遮るものが何もなく、風吹き山を越えはるか彼方にまで開けている。背中を強く押すように一陣の風が勢いよく吹き抜けた。