前回までのあらすじ。諸々の使命を帯びて『禁足地』を訪れた調査隊ハンターの俺は現地でまんまと釣りにハマり本業のモンスター狩猟がまったく手につかなくなっていた。同じく調査隊の一員であり学者と見られる(ギリただの一般釣り人の可能性もある)カーニャを師と仰ぎ、彼女の提示するさまざまな『サイドミッション』に挑戦しながら己の釣りスキルを磨いてゆくのだった。
さて、前編では『狙うは黄金魚』というミッションをクリアするために黄金魚を釣ったところまでを書いた。のちになって振り返ってみるとこの時点でのカーニャのお題はまだまだ序の口。ここからさらなる試練が俺を待っているのだ。
続く3つ目のミッションは『美味探求も釣りの楽しみ』。コモチアミアを釣ってカーニャに見せればクリアとなる。ん……? コモチアミア?(◎_◎ ) なんか少し前に見たような名前だがカンランアミアではなく? どうやら禁足地には俺が最近釣ったカンランアミアに似た名前の魚が存在するらしい。おそらくは近縁種なのだろう。コモチアミアを釣るのはわかったがそもそも"アミア"ってのはなんなんだ?
アミア・カルヴァ Amia calva は、北アメリカ大陸東部に分布する淡水魚の一種。全長50センチメートル程度で、円筒形の体、骨質板に覆われた頭部を持つ。長い背鰭を持つが、臀鰭が短いことで、他の類似した外見の魚類と区別できる。
肉は適切に調理すれば食用にできる。卵をキャビアの代用品として用いることもある。IUCNは保全状況を軽度懸念としている。
――Wikipedia『アミア・カルヴァ』より抜粋
……この"参照芸"ももう何度目かになるがこれをやるとなんとなく文章が全体的にしっかりしたような感じになって良い。感じがするだけね。なるほど、アミア・カルヴァという魚が実際にいるらしい。写真を見てみると確かに俺の中の"長い系"(どんな系だ)の魚のイメージよりも尾びれが短いようだ。これは勉強になった。
アミア・カルヴァの卵が食用として重宝されているのと同じようにコモチアミアも"子持ち"というくらいだから卵が注目される魚ではあるのだろう。そこまでは推測できたがその上でコモチアミアが実際どんな魚かはわからないままだった。
黄金魚の場合はその名の通り全身が目立つ黄金色だったので狙いを定めやすかったが、ことコモチアミアについてはその見た目に関する情報はゼロである。これは困ったぞ。俺は早速行き詰まってしまった。
似た名前のカンランアミアのフォルムは先ほども書いた"長い系"で頭部が丸く、その体色は全身が鮮やかな翡翠色である。それをなぜ知っているのかと言えば既に何度か釣っており環境生物図鑑にも載っているからだ。つまり逆に言えばまだ一度も釣っていない魚に関してはまったくのノーヒント。さて、どうすべきか……
ひとまず俺は『緋の森』エリア15で釣りを始めた。なんとここはハンターが普通にザバザバと歩けるほどの浅瀬にも関わらず足下を魚が泳いでおり、池や湖などよりもかなり近い位置から魚たちの様子を観察することができるスポットなのである。この辺りならば魚を目で見て判別しやすいし、加えて先のカンランアミアを釣った場所でもあるので似た種類(と勝手に思っている)のコモチアミアもここらで釣れるのではとアタリをつけたというわけだ。
とは言え肝心のコモチアミアの外見がわからない状態ではヤツがこの場にいるかどうか、もっと言えば"いないかどうか"さえわからない。いかに俺が釣りにハマっていると言ってもコモチアミアに一点集中しての暗中模索はつらいので、とりあえず辺りを泳いでいる魚たちを狙って適当に釣りを始めたのだった。
「釣りは忍耐が重要」とは我が愛しのオトモアイルー・オリーヴァの言だが、俺はこの日緋の森エリア15に到着してからもう2時間近くも釣りを続けていた。別に忍び耐えていたわけではなく単純に釣りに没頭してやめ時を失っていただけなのだが、2時間も同じエリアにいると周りの様子もガラリと変わってしまう。始めた頃は空の頂点近くにあった太陽もだんだんとその高度を下げてゆき、思わずリアルに目を細めてしまうほど眩しい真赤な夕陽に変化したのちに山の向こうへと消えていった。時間を決めず黙々と釣っているうちに辺りは暗くなり夜釣りの格好になった。
昼間はその溢れんばかりの生命力を表すかのように絶えず聴こえていた鳥のさえずり。陽が落ちるとともにその声も止み、エリア15は滝から流れ落ちる水音だけが満ちる夜の世界へと変貌した。夜空に留まりこちらを見ている月のほか周囲に目ぼしい灯りはない。腰に提げた虫かごの中の導蟲だけがほのかに発光して俺と俺の周りのわずかの水面を照らしている。
なんと風雅な……俺に少しでも教養があれば漢詩をよみたかったほどの場面である。以前にも書いたがあらためてこの緋の森エリア15は良いところだなあと思う。季節や時間の組み合わせによっていくつもの表情を見せるのが『ワイルズ』のフィールド。それらを問わずいつ来てもそれぞれ別の良さを見せる風流の場がここなのだ。
そんな雅な調子でせせらぎに独り佇み釣りに興じているうちにあっという間に夜が明けた。いや~堪能した堪能した。非常に満足感のあるひと時であったがはて、何か忘れているような……。俺はふとびくに目をやり本日の釣果を確認した。
釣った魚の中にコモチアミアはいなかった。「夜通しやってれば1匹くらい釣れるでしょ♪」ほどの軽い気持ちで始めたコモチアミア釣りは夜が明け朝が来ても終わらなかったのである。う~む、これは場所や季節が悪いと考えて間違いないだろう。水源の豊富な緋の森には釣り場はいくつもあるし第一に季節も特定できていない。これは骨が折れるぞ……。俺のそんな不安を反映するかのように先ほどまで星が瞬いていた空に灰色の雲が立ち込めた。季節が荒廃期に移ったのである。
とりあえず俺は釣り場を変えることにした。エリア15ではカンランアミアは釣れてもコモチアミアは釣れないのかもしれない。樹木の太い根が幾重にもなって絡まる崖を登り、エリア17の広大な湖の前に出た。
エリア17は琵琶湖もかくやというほどの広大な湖のほとりにある(琵琶湖見たことねーけど) これだけ広ければさぞ多くの魚が生息していることだろうしその中にコモチアミアがいてもおかしくない。俺は気を取り直して再び竿を取り出した。
少し離れたところに魚が集まり湖面がバシャバシャと揺らいでいる箇所がある。あそこに針を投げ入れればまず何かしらの魚は釣れるだろう。俺は水しぶきが立っている位置の近くまで駆け寄った。ルアーを装着ししっかりと狙いを定めて竿を振ろうとしたまさにその瞬間、俺はそのしぶきの中にとんでもないものを目撃した。

な、なんか岩みたいなデカい魚がいるー! 俺は初めて目の当たりにした巨大な魚の姿に腰を抜かした。その背びれのゴツさ、身体の厚さは今まで釣ってきたどの魚とも比べ物にならないほどだった。いやお前、いくらデカいからってそんなわかりやすく水面から出ることもないだろ……あんなもん見せつけられたら釣らずにはいられないじゃねえか。少し前までの(´_ゝ`)←こんな顔で月明かりを受けて流るる水のゆくえを楽しんでいた俺はもういない。海上をゆっくりと進行する船のような迫力ある巨大魚を目にして一気に俗世に引き戻された俺はコモチアミアそっちのけで巨大魚へのアプローチを図った。
しかしそれからいくら釣り針の引き方を変えルアーを変えウロウロしてもその巨大魚が食いついてくることはなかった。やはりそれぞれ他の魚と同じように何か特別に有効な手段があるのだろう。それがわからない内はアイツを釣るのは無理かもしれない。
俺はそれからも長いこと粘り幾度となく竿を振るい続けた。その間にも今まで釣ってきた通常サイズの魚たちが続々と釣れてゆく。サシミウオ、カンランアミア、バクレツアロワナ……びくもといアイテムポーチが魚でどうしようもなくヌルヌルになった頃、ついに俺はあの魚を釣り上げた。
釣り上げてまだ空中にいるうちにもわかるその朱色の魚体。明らかに今まで釣ってきたのとは異なる種類の魚だった。ビチビチと暴れる体を手元に引き寄せどんな魚かをまじまじと見る。あの巨大魚ほどではないが十分にデカい。コイツがコモチアミアか!
初めて見たコモチアミアの姿は俺がまったく想像していないものだった。てっきりカンランアミアと同じような緑系の体色で体長がカンランアミアよりもいくらか大きいくらいの魚だと思っていたのが、目の前のコモチアミアはその真逆のような体色をしていたのだ。
そもそもカンランアミアとコモチアミアの関係自体が定かでない。環境生物(釣魚)図鑑の調査員のメモによると「カンランアミアとヒレの形などが類似しておりその産卵期のメス個体という説もある」とのこと。このようにあくまで説止まりで現在進行形で調査中なのだ。つまりこの二種については俺がよくわかっていないだけでなく誰もわかっていない状態なのである(責任転嫁)
というわけで怪我の功名というべきか一石二鳥というべきか(?)、俺はまだ名前もわかっていない巨大魚を追っているうちに元々の目的であったコモチアミアの捕獲に成功した。これにてようやく冒頭で申し上げたカーニャからのミッション『美味探求も釣りの楽しみ』をクリアしたわけだ。……って偉そうに言っているが逆に言うとこれしかクリアしていない。一話まるごとコモチアミアの話に終始してしまったことになる^^;
なんだか今回はいつもと比べてもより長く一つのクエスト/ミッションについて書いてしまったような気がする。カーニャが提示するミッションはまだこんなところでは終わらず巨大魚についての謎も残されたままだ。思ったより長くなってしまいそうなことに不安を感じている俺の釣り戦記は次回へ続く。